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人形・映画・小説。なんでもありの日記。

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曼珠沙華2

『だれだ、おめぇ』

*****************************************

「雷信」
「お久しぶりでございます、潮殿」
いつの間に来たのか、かまいたち兄妹の雷信が隣の木の根元にひざまずき、潮のほうを見ていた。あわてて立ち上がり、その手をとる。
「そんなひざまずいたりしなくていいよ!…久しぶりだなぁ」
「はい、潮殿にもお変わりなく。お元気そうですね」
「おう、元気元気!って、もしかして迎えに来てくれた?」
はっと気づいて恐る恐るたずねる。にこりと雷信は笑って、
「木霊たちが、潮殿が来たと知らせてきましたので、早くお会いしたくなってまいりました」
気遣いのある言葉に潮は恥ずかしげに笑い、荷物を手にした。少ないとはいえ、旅費と法具が入った小さなリュックだ。先ほど飲んでいたペットボトルをリュックにしまいながら、
「悪いなぁ、急に泊まらせてくれなんて。しかも妖怪退治、なのに」
「いいえ、潮殿はわれわれの恩人です。恩人がいらっしゃるのに厭う理由がありましょうか」
「そういってもらえると助かる…」
「それに、私どもも少々お話したいことがありますので」
「話って?」
思わず立ち止まる潮を促して雷信は足を進める。辺りをすばやくうかがったのに気づいた潮はおとなしく頷き、雷信の相談したいことに触れず、他愛もない話をすることにした。
「かがりは?元気にしてる?」
「ええ、とても。今日も潮殿がいらっしゃると聞いて朝から用意しておりましたよ」
「楽しみだなぁ。かがりの飯、うまいんだー」
はしゃいだ声を上げると、雷信は年の離れた弟を見るような目で笑い、屋敷へと森の深くへ案内を始めた。二人の後をズルリ、と黒い影がゆっくりと後をついて行った。


雷信たちの住んでいるのは深い山の洞窟めいた穴を深くもぐった先にある平野だった。そこに平屋の日本家屋が建っていて、日本昔話に出てくるような風景だと潮はぼんやり思った。
そういえば以前すんでいたのも昔ながらのどっしりした日本家屋だった。
雷信が引き戸を開けて声をかけると中からかがりが飛び出してきた。
「潮様!まあまあ、遠いところをよくおいでなさいました。さ、こちらへいらしてください。お疲れでしょう?」
着物を着たかがりは台所仕事をしていたのか、たすきがけをしていてざるに野菜をたっぷり抱えていた。それを土間にほうって潮を中に招くと桶を持ってきて足を洗ってくれようとする。
あわてて潮は押しとどめた。
靴を履いているからそんなに汚れてはいないし、何よりかがりは汚れるのもいとわずひざを突いているのだ。そこまでしなくても、というと申し訳なさそうに肩をすぼめた。
「申し訳ありません、潮様がいらっしゃるのでうれしくて」
そういわれると潮も悪いような気がしたが、にっかと笑うと、お世話になりますと頭を下げた。かがりは恐縮してあわてて手を振るが、ふと思い出したように、
「潮様がいらっしゃると聞いてイズナや雲外鏡のおんじもいらっしゃるようですよ」
それをきくと懐かしさに潮ははしゃいだ声を上げ、それを見てかまいたち兄妹たちはほほえましげに目を細めた。



洞窟の先にあるはずの空間なのに、傾いた日の光が注ぎ、替わりに上ってくる月の白い光もしっかりと届くのを見ながら、潮は久々にイズナや雲外鏡のおんじたちとにぎやかな夕飯を取っていた。
懐かしげにイズナは潮から離れず、おんじも上機嫌で酒を飲んでいた。
夜も更け、あたりの音がしんと静まるころ雷信が切り出した。
「最近になってまた現れる妖怪が増えてきたのです」
「前にいたやつらとは違うのか?」
石になって日本を支えている大妖たちを思い返し、潮は尋ねる。実際自分が派遣されたのだから、妖怪は一時期よりも増えてきているのだろう。それにしても異常だと雷信は繰り返す。
「白面のものとの戦いのときに力のない妖怪だったとしても、この10年ほどで異様な力をつけています。以前は妖怪というのはもっと時間をかけて大きくなるものです。大きければ大きいほど、力が強ければ強いほど、すごしてきた時間は長い。とら殿も…」
いったん雷信は口をつぐんだ。勢いに任せて口をついた名前に、潮の肩が震えたのを見たからだ。潮は大丈夫さ、と微笑んでから、
「短い時間で妖怪が育ちすぎる?」
「はい。とてもよくないことのような気がするのです、人間にとっても妖怪にとっても」
雲外鏡のおんじは酒で口を湿らせながら、
「そうよの。短期間でよみがえった妖怪はもし体が大きくても中身が空っぽの木偶人形じゃ。それが力まで蓄えてるとなると年月を経るだけではない、原因があるやもな」
「原因?」
「そう、人間の悪感情とか」
きっぱりした雷信の声に潮は口を結ぶ。妖怪に力を与えてしまうほどの感情を人間が持ちえるのか。
「ああ、でも…四国のお外道さんみたいなのだったら、ありうるかもしれない…」
以前戦った四国の妖怪…人に取り付いてその人間の悪感情を食べて操るのを思い出し、眉間を寄せた。そういう者が増えているのかと、戦い方を思い出していた。
「潮様にご相談したかったのはもうひとつ。この付近で黒い影を見たと」
「影?」
「ええ、私たちも人間の振りをして里に下りますから。その時に黒い影を見たという話がありまして。それは潮様が探している妖怪なのかと思ったのですが、もう一体」
「2体いるの?」
雷信は身をかがめ、潮に顔を寄せた。名前が聞こえたらそれが近づいてくるとでも思っているようなしぐさで。
「仲間ではないと思いますが、黒い影を追って…金色の動物がいたと」
「動物?」
金色、といわれ潮は目を見開く。まさか。
「金色です。最初は外国の…らいおんですか?そういう動物かと思ったらしいのですが動きが早すぎてイやあれは動物じゃなかろうと」
このような草深い土地ですから、妖怪や変化はまだ根付いているのですよと雷信は言った。
「土地のものは神社のお使いの狐だろうといっていましたが…潮殿。もしや、とら殿では」
おんじもこちらを見た。しかし酔っ払っていて鏡は曇ってどうも見せてくれとはいえない状態だった。
「とらなのか?…俺には、ぜんぜん」
いつになるか分からないが、立ち返ったならば少しは感じるところもあるだろうとそんな風に考えていたのに。普通に生活していてぜんぜん分からなくなっていた。
呆然としている潮に二人はなんとも言いようがなく、顔を見合わせていた。



疲れておいででしょうからと雷信が潮を客間に連れて行ったが、しかれた布団の上に座って潮はじっとしていた。とらが還ってきているかもしれないという話を聞いたのは初めてで、しかもそれが潮のいる人間の町ではなく雷信たちの妖怪のいるところからの話になれば信憑性は高い。
でも、潮自身には何も感じなかった。
予兆があるかもしれないとは思っていたが、まったくなくやはり妖怪と人間ならば違うものなのかとがっかりもした。じっと手のひらを見つめていると、暗かった室内に月の明かりが差し込み青白い光が窓から入り込む。どれくらい経ったのかとあわてて腰を上げたとき、ザワッと鳥肌が立った。
悪念、と教師は言っていた。こちらに向ける害意、敵意それを感じた。人間ではなく、異質な感触ですぐに妖怪と知れた。
(雷信たちがいるのにこんなに近くまで?)
もしかしたら人間のにおいをかぎつけたのかもしれない。
リュックから法具を取り出すと部屋を飛び出し土間の靴をあわただしく履く。何事かと雷信が顔を出したので、言ってくると声を漏らす。
「ご助勢いたします!」
「いいよ、これは俺がしなくちゃいけないんだからさ」
大丈夫、とにんまり笑って家を飛び出す。課題とはいえ、光覇明宗の見張り役がいるかもしれない。法具を握りなおし潮は先ほどの悪念をたどり、足を動かした。
洞窟を抜けると木に囲まれた深い森に出る。木は大きく太く、黒く濃い影を落としてそれだけで恐ろしい。地面が見えない。その鬱蒼としたなかで、木の枝が激しく揺れた。
振り向きざま潮は法具を投げる。勢いをつけたはずなのにやすやすとその影は法具をよけ、けけけけと引きつったような声を出した。
(とらじゃない!)
少なくとも黒い影はとらとはまったく違う、きしるような笑い声だったのだ。目を凝らす。
黒い剛毛に覆われた妖怪は赤く底光りする目を光らせた。
『人間だ、人間。うまそうな人間だよぅ』
歌うように人語を操るがどうもなまっているように聞こえる。たとえるなら外国の人が無理やり日本語をしゃべっているようなぎこちなさ。
「出てこいよ、妖怪。隠れてないで、俺の前に出て来い」
法具を握りなおした。低く身構えるが、ふと声が途絶える。あわてて気配を探った瞬間となりの木から黒い影がわしが飛び掛るように鋭角に飛び込んでくるのが見えた。
(しま…っ!)
あまりの速さに一瞬反応が遅れた。
思わず目を閉じ、すぐに来る痛みを覚悟したが、がつん!と鈍い音がして『ギャッ!』とサルのような悲鳴が上がる。
「おいこら、せっかく目をつけた人間をとろうとするんじゃねぇよ」
『なんだ、お前ぇえっ!?妖怪の癖に…っ!』
「うるせえ、騒ぐな三下」
のし、と空気を揺らす感触と、聞きなれた声に潮は目を見開く。目の前に金色の毛皮が波打っていた。
「とら!?」
思わず声を上げると、金色の獣は振り返った。じっと潮を見ると、
「だれだ、おめえ」
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