SANS-SOUCI

人形・映画・小説。なんでもありの日記。

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桜淡雪

桜が咲くと思い出す。



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「オレたちって、高校にいけるのかな」

ポツリと漏らすと、麻子は目を丸くしてうしおを見た。

真由子もじっと見つめている。

二人の視線に少しだけ前の、でもあえて口にしないようにしたことが浮かんでいる。

慌てて言葉をつなげた。

「ほ、ほら。あんまり、勉強してなかっただろ?

それなのに受験っていわれても困るよな、な!?」

「そりゃ今のうしおの成績じゃあねぇ・・・」

「なんだよ!?」

「麻子ってばぁ・・・大丈夫だよ。あたしと麻子も教えてあげるから!今からでも大丈夫」

ほわん、と真由子が仲裁に入ると、

思わず二人とも和んでしまう。

「そうだよな!頼りにしてるぜ、真由子!」

「ちょっと!あたしも教えてあげるんだからねっ!」

紅い顔をした麻子が、つっけんどんに言う。

真由子がくすくす笑って、紅くなった麻子をからかっているが、うしおには何でかわからなかった。

二人の様子を見ていると、教室に入って来た担任が声をかける。

「ジャージに着替えろ~。着替え終わったら、手伝いに行くぞ」

「「「は~い」」」

教室にいた全員が返事をする。

手伝いとは、町の復興支援のことだ。



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4月初めの白面の者との戦いで町の建物は、ことごとく壊れていた。


学校の体育館は避難所になっていたけれど、校舎は崩れ今はプレハブの校舎で勉強している。

ビルも、マンションも、見慣れた風景がすっかり変わり、オレたちは言葉も出なかった。

今はボランティアの人たちのおかげで家も立ち並び、以前の風景を取り戻そうとしている。それでも何か、真新しすぎてなじめない。

何より、

(とら)

あの日から口にしない名前が、喉を焼く。

呼んでしまったら、耐え切れなくなりそうだった。

とらがいないことに。

だから、うしおは歯を食いしばって、呼ぶことはない。



うしおが都立の高校ではなく、寺の光覇明宗付属の高校に行くといったのは、その秋のことだった。

麻子も真由子も寂しそうな表情を浮かべたが、やっぱりね、という風に、頷きあっていた。



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それぞれの進路が決まった春先。

受験から開放された、長い休みに入る。うしおももちろん、のんびりと過ごしていた。

朝はゆっくり起きて、母の作ったご飯を食べ、スケッチに出る。

または友人とどこかに遊びに行ったりもした。友人の中では、うしおだけ近くの高校に進学しないので、寂しいのもあるのだろう、いつもよりはしゃぎまわることが多かった。

その日も、うしおは友人と夕食を食べて帰るところだった。

夜遊び、というほど遅くはないが、出れば20時を回るくらいまでは外にいるようになった。

実を言えば、紫暮と須磨子が、14年ぶりの結婚生活をしているので、うしおなりに気を使っているのもある。

「・・・・・綺麗だなぁ」

今年の冬が暖かかったので、気の早い桜がほころんでゆれている。目を細めてそれを見上げていた。

ふと思い出す。

一年前も同じように桜が咲いていて、その中で笑う麻子がとても綺麗に見えて、思わず『送ってってやるよ』と声をかけた。

桜が舞い散る中の思い出。

そして思い出はすぐに、金色の妖につながる。

「・・・・と」

細い声が上がりそうになる。唇をかみ締めてこらえる。

途端に強い風が一陣吹いた。

桜の木が撓り、咲いていた花も引きちぎられるように風に舞う。

思わず振り仰ぐと桜のとんだ先に金色が見えた。

ひゅうッと喉が鳴った。わずかに唇が開く。

「・・・とら・・・」

ささやきほどの声に、金色の妖は振り返る。そして見覚えのある、にやりとした笑いを浮かべた。

「なんでぇ、しけた面してんなぁ。うしお」

「とら!」

うしおは大きく声を上げると、そちらへ走っていく。もうすぐ手が届く、ところでふいと妖はきえた。

「・・・・とらぁ・・・」

泣き声混じりの言葉に答えるように、頬にポツリと落ちるものがあった。

「雪?」

冬の間、見ることのなかった雪がふわりと落ちていたのだ。

けしてあとを残すようなものではない、薄い雪は静かに静かに落ちてやがて夢のように、はかなく消えた。

すべては夢の中。

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